ふくらはぎは腓腹筋(ひふくきん)という下腿部にある2つの筋肉で、主に足首の底屈(つま先立ち動作の方向)を行うために重要な役割を果たします。ふくははぎの肉離れは、この腓腹筋がが過度に伸張されたり、急激に強い力がかかったりする(例、踏ん張る)ことによって発生することがあります。

肉離れしやすいスポーツ

腓腹筋肉離れは、特定のスポーツや活動で発生しやすい可能性があります。以下は、腓腹筋肉離れのリスクが高いスポーツや活動です。

  1. バスケットボール
    バスケットボールでは、大きな方向転換やジャンプが頻繁に行われるため、腓腹筋に負担がかかります。
  2. サッカー
    サッカーでは、スプリント、急な減速、方向転換が多く、腓腹筋へのストレスがかかります。 特に草地でのプレーでは、足を捻ったり、滑ったりすることが多いため、ケガのリスクが高まります。
  3. テニス
    テニスプレーヤーはコート上で左右に大きくステップすることがあり、腓腹筋にストレスがかかります。特に硬いコートでプレーする場合、腓腹筋への負荷が増加します。テニスでふくらはぎの肉離れの発生が多いため、別名テニスレッグを呼ばれる程有名な怪我です。
  4. ランニング
    長距離ランナーやスプリンターは、腓腹筋に連続的な負荷がかかり、リスクとなります。
  5. ダンス
    ダンスは手や足全体に激しい運動を伴います。特にジャンプや回転の多いスタイルでは、腓腹筋に負担がかかります。

これらのスポーツや活動を行う際、適切なウォームアップ、ストレッチ、筋力トレーニング、適切なテクニックを実践することが、腓腹筋肉離れのリスクを軽減することに役立ちます。痛みや違和感がある場合は、医師の診察を受けることをお勧めします

リスク要因

肉離れに関連する特定の個人の特徴やリスク因子はいくつかあります。

  1. 筋肉のアンバランス
    腓腹筋と他の組織(例、アキレス腱や足底筋など)のバランスが悪い場合、腓腹筋に負担がかかりやすい可能性があります。
  2. 疲労
    腓腹筋は、長時間の運動や強度の高い運動で疲労しやすいです。 特にスポーツ選手やランナーなどの競技者は、疲労中のトレーニングや過度な運動量の増加によって腓腹筋離れのリスクを高めます。
  3. ウォーミングアップやストレッチ不足
    正しいウォーミングアップやストレッチができていない場合、筋肉の柔軟性が不十分となり、怪我のリスクが増加します。
  4. 年齢
    年齢とともに筋肉や腱の伸張性や粘弾性が減少し、怪我のリスクが増加する可能性があります。特に40歳以上の中後年の方は注意が必要です。
  5. 体重管理
    過体重や肥満は足部の負担を増加させ、肉離れのリスクを高めることになります。
  6. 過去に腓腹筋肉離れの経験がある
    再発のリスクがある怪我です。過去の腓腹筋肉離れの治療やリハビリテーションが不十分だった場合、柔軟性や筋力が回復が不足して再発する可能性が高まります。

症状

肉離れの場合、以下のような症状があります。

  1. 痛み
    ふくらはぎの中央付近、特に内側の下部で鈍いまたは鋭い痛みが感じられます。この痛みは、運動時や筋肉を使った活動時に特に強くなります。動かさないと痛みがない場合も多いです。
  2. 腫れ
    肉離れを起こした部分が腫れます。腫れが強いと腫れている箇所が硬くなっていることがあります。
  3. 歩行困難
    腓腹筋肉離れが重度の場合、歩行や立つことが困難になることがあります。歩行できない場合は、専門家の受診をお勧めします。
  4. 筋萎縮
    肉離れの程度がひどい場合、ふくらはぎが痩せて細くなり左右差が出現する場合があります。
  5. 筋力低下
    踵上げ動作で力が入りにくく、十分に踵を挙げられないことがあります。また踵上げの回数も健側(怪我してない側)に比べて少ないことがあります。

診断

腓腹筋肉離れの診断には、以下の方法が使用されます:

  1. 病歴の評価
    患者の病歴を詳しく聞き取り、怪我の原因や症状の経過を把握します。
  2. 身体評価
    患者のふくらはぎを詳しく検査し、痛みの場所や強さ、腫れ、硬さなどの症状を評価します。
  3. レントゲン検査
    病歴と身体評価から腓腹筋肉離れの可能性の高い場合は、撮影しない場合があります。受傷機転や病歴によっては骨折を疑ってレントゲン撮影が行われる場合があります。
  4. エコー検査
    腓腹筋は体表近くに存在するためエコー観察がしやすく、肉離れが存在する場合は殆どの場合評価可能です。範囲が広かったり、腫れや筋肉量が多くて正確な評価ができない場合は、MRI検査が行われる場合もあります。当院にはエコースキルを持った柔道整復師がエコー評価をその場で行い、必要に応じて連携している専門医のいる医療機関に受診をご案内します。

治療法

腓腹筋肉離れの治療は個別のケースに合わせたアプローチが必要です。専門の医師や理学療法士と協力して計画し、正しい治療を立てることが重要です。

  1. アイシング
    48時間以内に、患者部にアイスパックを当てることで、腫れや炎症を軽減することができます。 アイスパックは15〜20分ごとに数回行います。一方でアイシングを行うと自己治癒能力を阻害し、筋の再生が遅れるというエビデンスも存在します。痛みが強い場合はアイシングを行い、我慢できるのであればアイシングを控えることを勧めます。
  2. 圧迫包帯、シーネ固定
    圧迫包帯を使用して、腫れや出血を抑えます。包帯による圧迫が痛い場合は、シーネで固定します。
  3. 挙上安静
    患部を持ち上げて心臓よりも高い位置に立つことで、血流を改善し、腫れを軽減します。
  4. 内服
    痛みが強い場合は、整形外科を受診し痛み止めや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方してもらいます。
  5. 穿刺
    重度の肉離れの場合、表層の腓腹筋と深層のヒラメ筋間に血腫が貯まる場合があります。血腫が存在する間は、肉離れした箇所は治らないので、積極的に血腫を注射で抜き(穿刺)、治癒を阻害しないようにします。血腫が存在するかは視診や触診では判断できません。エコーを用いることでその場で確実に評価することが可能です。
  6. ストレッチ(下腿三頭筋)
    筋肉が十分に回復するまで、つま先を反らすような腓腹筋を伸ばすストレッチは控えるべきです。回復が進むと、つま先を反らしても痛みではなく、違和感や伸張感に変わってくるので、柔軟性を向上させるためにストレッチを行います。
  7. 筋力トレーニング(下腿三頭筋)
    つま先を反らしたり、踵を上げる動作が出来るまで動きが回復したら、腓腹筋を強化するためのエクササイズを開始します。最初はチューブなどの低負荷の運動を行い、慣れてきなら踵上げなど自分の体重を使ったセクササイズを行います。これにはバランストレーニングなども含まれます。
  8. アスレチックトレーニング
    再発しないで安全にスポーツ復帰させるには、ゆっくりと進め、痛みや不快感を感じない範囲で行うように注意しましょう

再発を防ぐために、スポーツや運動前に十分なウォームアップとストレッチを行い、正しい靴を履いて運動を行うことが大切です。